甘露蜜に関する歴史資料を調べています。

 

 

徳田義信『蜜蜂』(丸善、1913)

 

本書は100年以上前の古書ですが、542頁に次のような記述があります。

“其他欧州にも山蜜(Waldhonig)と称し、山地に於て生産せらるるものにして暗色樹脂様の味を有するものあり。其の凝固せるのもは淡褐色を呈し、粗大にして分極光面を右施す。”

この記述が甘露蜜に関する日本の養蜂書最初の言及と思われます。ドイツのメルヒャー華代子さんにお聞きしたところ “wald”は「森」を指すことばで、山は“berg”。 “waldhonig” は「森のはちみつ」のこととのこと。

waldhonig”は、ドイツの甘露蜜の一般的な表記のようです。この他に “tannenhonig” という表記がありますが、これは「モミ(の木)のはちみつ」です。”kieferhonig”「松(の木)のはちみつ」と言うのもあります。徳田義信『蜜蜂』には“甘露”、“甘露蜜”と言う用語は出てきません。

(貝瀬収一、2022/011/19フェイスブック「甘露蜜源を探そう会」への投稿より

 

 

――>雑誌『日本の養蜂』

昭和2年第2号(41日発行)より

「甘露蜜の價値と疑問」桐林平蔵

日本において甘露蜜の存在は、貝瀬さんのご紹介の通り、徳田義信(1913)『蜜蜂』の中で、山蜜として紹介されました。

今回ご紹介するのは昭和21927)年の投稿文で、「甘露(蜜)」という名前がでています。

著作権保護の期間が過ぎていますので、雑誌の表紙と、本文該当箇所2ページをシェアさせていただきます。

アブラムシは「蚜虫 」と記載され、26ページには、「昨年は計らずも多量の甘露に出合ったので、其見たところの状態と、甘露が養蜂業に對して有意義のものである事を報告し、以て諸賢の参考資料に供したいと思ふ」としています。

筆者の居住地では、真夏に「温度の高い旱天が雨無しに二十日以上も續くと、決つて、クニの木の葉?から甘露が分泌するのが殆んど御定まりであって、そうした年には、越夏の消費と衰弱とを、或程度迄は緩和する。」

そして通常は6月中下旬は雨が降るはずなのに、昨年は晴れのみ日が続き22日頃から、活動時刻が急変。早朝から7時頃までと、午後6時から黄昏時まで活動して、その他の時間に活動しなかったことから、これは変だ何の花が咲いたかと気づいた筆者が、山林にあがってみたところ、花ではなく「ホーソ」の葉の甘露にミツバチが活動していた。また栗にも少し存在したが、他種には存在しなかったとのこと。

筆者は、葉の裏にアブラムシも確認しています。

この年は、甘露のおかげで、夏に貯蜜が豊富になったことを述べつつ、この甘露蜜の純粋に近いものは、

「靑黒を帯びた濃褐色で味は甘味頗強く微かな澁味を帯び香氣は低いが、稍(やや)悪臭味があるやうである」としています。

ーー

また本文の最後に、当雑誌の編集者であり発行者であるYH(平塚保雄)が、

【クニ木は、櫟(くぬぎ)の事かと思ひ、カシラセン、ベンダラ等は特に不明だが、甘露は其等闊葉樹斗りでなく、松などの針葉樹からも産し夏樹の蜂群意地には大に役立つけれども、越冬飼料としては不良で又人の食用としても好ましくないのです(YH)】

とコメントしており、彼の甘露蜜に関する意識を伺い知ることができます。

雑誌『日本の養蜂』は、岐阜県多良村の日本の養蜂社から、昭和2年から出版された雑誌で、同雑誌の昭和2年第4号でも、山口県の松岡久熊という人物が、

「『にが蜜』に就て」

というタイトルで、甘露蜜について寄稿しており、これは夏橙(ナツミカン)につくアリマキの甘露蜜が、越夏越冬の群の食料として重要であることを述べたものです。これは別途、ご紹介します。

(真貝理香、2022/012/19フェイスブック「甘露蜜源を探そう会」への投稿より

 

 

<甘露が、山口県萩地方では 蜂群の越夏中の食料!!という昭和初期の報告>

――>雑誌『日本の養蜂』昭和2年第4号(61日発行)より

「『にが蜜』に就て」松岡久熊(山口県)(30頁)

前回に引き続きご紹介するのは『日本の養蜂』という雑誌から、同雑誌の表紙と、本文コピー(著作権保護期間終了)です。

当時の養蜂雑誌は、各地の養蜂家からの投稿が多数掲載されています。

この「にが蜜」というのは、投稿者松岡氏が「吾等が勝手につけた名稱(名称)」で、非常に苦い蜜とのこと。

「しかし花から産するのではなく、夏季中夏橙の新芽に発生する蟻まき(属に云ふサバアと云ふ小さい虫)の尻から分泌する甘い液である。

それが、長州萩地方では越夏中の蜂の食用である。」

と書かれており、甘露蜜で間違いありません。

この地域では、夏橙(ナツダイダイ=夏みかん)の花からの採蜜だけでなく、その後も

「『にが蜜』がある為め、給餌等の必要更になく〜」

と、夏の蜜枯れ期の食料として重要だったことが書かれています。

ミツバチの周年管理(夏期)における、甘露の役割を養蜂家さん自身が理解していて、この投稿も興味深いです。

甘露蜜が苦い?

ということに関しては、編集者のYH(平塚保雄)氏が、「多くの甘露は苦いものではないがおそらく其を分泌する蚜虫(アブラムシ)の種類、又は其の寄生せる植物の種類で異るのであらう」とコメントしています。

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今でも、夏みかんは、萩の特産。

2018年の夏みかんの都道府県別シェアは、鹿児島県33.8%、熊本22.5%、愛媛18.0%、和歌山7.9%

https://urahyoji.com/crops-natsumikan/

だそうですが、通常、現代では柑橘類のアブラムシは防除対象となり、甘露蜜はあまり期待できない?のでしょう。

逆にいうと、農薬が普及する戦前には、柑橘類のハチミツの採蜜が終わったあと(そして梅雨があけて雨が少なくなった時期など)、ミツバチは柑橘類についたアブラムシからも、恩恵をうけていたのかもしれません。

(真貝理香、2022/12/21フェイスブック「甘露蜜源を探そう会」への投稿より

 

 

 

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